中国では学歴が人生を左右するとまで言われ、学歴社会が一層の過熱を見せています。教育が成功や安定した職業に直結すると信じられているため、多くの家庭が子どもの学力向上に膨大な時間と費用を費やしています。こうした背景には、厳しい大学入試である高考の存在や、一度きりの試験で合否が決まるシステムが影響しています。また、大学進学率の向上に伴う競争の激化や、高度な学歴が必要とされる就職市場の現状も、学歴重視をさらに押し進めています。本記事では、中国が学歴社会と呼ばれるに至った成り立ちと、現代の厳しい教育競争、政府の政策がどう影響しているかを詳しく解説します。
記事のポイント
- 中国の学歴社会が形成された背景とその要因
- 高考の仕組みや試験の厳しさについて
- 学歴重視の社会がもたらす就職や収入への影響
- 学歴競争の過熱とそれに対する政府の政策や対策
中国の学歴社会とは？その成り立ちと背景を解説
なぜ中国は学歴社会と呼ばれるのか
中国が学歴社会と呼ばれる背景には、教育が社会での成功や高い地位の獲得に直結している現実が大きく影響しています。中国では、古代の官吏登用試験「科挙」の伝統が現代まで影響を及ぼしており、現在の大学入試「高考」も非常に重要視されています。多くの家庭がこの試験を通じて子どもに安定した未来を求めているため、教育への投資や子どもの勉学への期待が年々高まっているのです。
中国においては、特に有名大学への進学が一種の「成功」とみなされ、企業の採用や政府機関の職に就く際にも学歴が重要な判断基準となります。このため、家庭は子どもが良い学校へ進学するために、非常に高額な費用をかけて学習塾や家庭教師を利用したり、教育環境の整備に力を入れたりしています。こうした状況は、都市部に限らず地方の家庭にも影響を与え、競争が激化しています。
また、学歴が社会的地位や収入に直接的な影響を与えることが一般的に認識されているため、子どもたちも早い段階からプレッシャーを感じながら勉学に励んでいます。大学進学や良い職業に就くことが成功への鍵と見なされるこのような状況が、中国を学歴社会と呼ばれる一因となっています。これにより、親世代も自身の体験から学歴が重要であることを知っており、それが今も続く文化として根強く残っています。
大学進学率の向上と競争の激化
近年、中国では大学の定員増加や高等教育の拡充により大学進学率が向上してきました。大学の「拡招（かくしょう）」と呼ばれる募集拡大政策によって大学入学がより身近になり、多くの学生が高等教育を受けられるようになっています。しかし、同時に大学進学者が増えることで学歴の差別化が難しくなり、競争がさらに激化しています。
大学進学が当たり前になったことで、就職市場では学士号だけでは目立ちにくくなり、企業の採用基準がさらに厳しくなる傾向が生まれました。そのため、大学院進学や追加資格の取得を目指す学生が増え、より高い学歴が求められる状況が生じています。また、大学進学者が増えたことで、地方の大学や新設校も急増し、学生の選択肢が広がっている一方、社会的に評価の高い大学への進学が求められる傾向が強まっています。
こうした中、進学後に良いキャリアを築くために名門校を目指す学生が増え、特に「高考」に向けた競争が一層過酷になっています。これにより、大学進学率の向上がかえって受験競争や学歴社会の一因となり、教育における地域間格差や学歴偏重社会がますます顕著になっています。
大学院進学の増加と高まる学歴への期待
中国では、大学院進学の志願者数が年々増加しています。これは、学士号の取得が当たり前となる中で、より高い学歴を持つことが社会的評価やキャリアの安定に直結するという考え方が広まっているためです。企業側も高度な専門知識を有する人材を求める傾向が強まっており、採用条件に大学院修了を設定するケースも増えています。このため、学士課程を終えた学生の多くが大学院進学を希望し、就職市場での優位性を目指してさらに学ぶ道を選択するのです。
加えて、初任給や昇進においても学歴の違いが影響することが少なくありません。例えば、大学新卒者よりも修士や博士の学位を持つ人の方が高い給与水準に位置づけられることが一般的です。このような待遇面での違いも、大学院進学へのモチベーションを高める要因となっています。また、近年の就職難や職業市場の変化により、学生たちは進路に対して慎重に考えるようになり、学歴を上げることでより良い選択肢を得たいと考える傾向が強まっています。
このように、大学院進学の増加は単に学歴の高さを求めるだけでなく、社会や企業の需要に合わせた選択といえます。学歴への期待は、学生たちの生活やキャリアの選択に直接影響を与えているのです。
中国の大学入試「高考」の実態と難関度
「高考（ガオカオ）」は、中国全土で毎年6月に実施される大学入試で、多くの学生にとって人生を左右する重要な試験とされています。中国の大学入試制度は、日本のような複数回の受験機会がないため、一度の試験結果が合否に大きな影響を与えます。これにより、高考は中国で「人生を決める一発勝負」とも称され、受験生には大きなプレッシャーがかかるのが実情です。
試験の科目は国語、数学、外国語が必修で、その他に理系・文系の選択科目も課され、合計750点満点のスコアで評価されます。この点数によって志望する大学が決まるため、どの科目でも高得点が求められ、勉強に多大な時間と努力を注ぐ必要があります。特に名門大学を目指す場合、高得点が必須となり、膨大な競争を勝ち抜く覚悟が求められます。
さらに、中国の大学入試には地域格差も存在し、出身地域によって同じ大学への合格基準点が異なる場合もあります。このため、地域によっては他地域の受験生より高得点を求められることもあり、受験生は一層厳しい状況に置かれることがあります。このような試験制度と難易度のため、高考は中国の学歴社会の象徴ともいえる厳しさを持つ試験とされています。
中国の学歴社会の課題と未来の展望
学歴競争の過熱と「双減政策」の影響とは
中国では、激しい学歴競争が年々エスカレートし、多くの学生が成績向上のための塾通いや家庭教師の利用に時間と資金を投じています。このような学歴競争の過熱が、社会的にも経済的にも大きな負担となっている現状を受け、中国政府は「双減政策」を2021年に打ち出しました。この政策の目的は、小中学生に対する宿題や学習塾の負担を軽減し、家庭の教育費負担を減らすことにあります。
双減政策の導入により、義務教育の学年に対する営利目的の塾が禁止され、家庭教師や塾での指導が厳しく制限されました。これにより、大手の学習塾チェーンが次々と閉鎖され、多くの家庭が課外活動やスポーツ、趣味の分野での教育に目を向け始める変化も見られました。しかし、競争を抑える意図とは裏腹に、違法な家庭教師が増えるなど、政策の制限をかいくぐる動きも見られ、抜本的な解決には至っていない部分もあります。
双減政策の影響はまだ進行中ですが、都市部の一部家庭では依然として家庭教師やオンライン教育に依存する傾向が続いています。教育費の負担は減少傾向にある一方で、学歴社会における競争の根深さや受験へのプレッシャーを完全に解消するには、さらに多面的な対応が必要です。
地域格差是正に向けた教育政策の必要性
中国の学歴社会には、地域格差という大きな課題が横たわっています。都市部と農村部では教育へのアクセスや質に大きな差があり、地方の学生は高等教育機関への進学において不利な立場に置かれることが少なくありません。大学入試においても、各大学が出身地域に応じて定員を分けているため、地域ごとに異なる合格基準が設けられ、都市部出身の学生と比べ、地方の学生は高得点を取らなければ同じ大学に合格できないケースもあります。
こうした地域格差を解消するために、政府は農村部への教育投資を増加させ、教育施設の拡充や教師の配置を見直す施策を打ち出しています。さらに、インターネットを利用した遠隔教育やデジタル教材の導入も進んでおり、都市と地方の教育格差を縮小するための試みが始まっています。しかし、実際に教育の機会が平等に行き渡るには、インフラ面の整備や優秀な教員の確保といった課題が残されています。
また、地域格差是正の取り組みは、長期的に地域の経済発展にも貢献すると期待されています。教育環境が整うことで、地方の人材流出が抑えられ、地域ごとのバランスの取れた発展が見込まれるため、さらなる政策の強化が望まれています。
海外留学を選ぶ中国人学生の増加傾向
中国では、厳しい学歴競争と就職市場の変化により、海外留学を選ぶ学生が増加しています。特に、欧米や日本など教育水準が高く、安心して留学できる国々が人気です。これには、国内の大学入試「高考」を回避して留学を選ぶという選択肢が広がったことが大きく影響しています。高校や大学では「国際クラス」など、初めから留学を視野に入れたコースを提供する学校も増え、留学準備がしやすい環境も整ってきています。
さらに、経済の発展に伴い、中流層以上の家庭が増えたことで、教育費をかけてでも子どもに良い教育を受けさせたいという親の意識が高まっています。欧米への留学は費用がかさむ一方で、日本やアジア諸国への留学は比較的費用が抑えられるため、特に日本留学は近年中国人学生にとって安心・安価で人気が高まっている選択肢となっています。また、留学先での多文化交流や言語の習得が今後のキャリアに役立つと考える学生も増えており、国際的な視点を持った人材になりたいという意識も影響しています。
こうした留学志向は、学歴競争が激しい中で中国の若者が自己の成長やキャリア形成のために新しい道を模索する姿勢を反映しているといえます。
就職難が続く中国で変わりゆく進路選択
中国では近年、大学卒業生が増加し続けているため、学歴が就職の保証にはならず、就職難が深刻な問題となっています。特に大卒者の求人枠が限られる中で、学生たちは職業選択の幅を広げようと模索しています。従来は政府機関や大手企業への就職が理想とされてきましたが、競争率が上昇した結果、これらの道が狭まりつつあります。
このような背景から、一部の若者は就職よりもさらに専門性を高めるために大学院進学を選ぶケースが増えています。また、ホワイトカラーの職に就けなくとも、ブルーカラーや現場職で安定した収入を得ようと考える人も増加しています。さらに、自ら事業を立ち上げる「起業」を目指したり、インフルエンサーとしてのキャリアを模索する若者も増え、多様な進路が見られるようになりました。
また、公務員試験への応募も増え、安定した職を求める傾向が見られる一方で、競争が厳しいため、目標を変えざるを得ない状況もあります。学歴だけでは十分に満足できる職に就けない現状を踏まえ、若者たちは柔軟にキャリアの選択肢を考え直し、新しい働き方を探る時代を迎えています。
概略：中国の学歴社会がもたらす影響とは？
